二重螺旋2

「…ここです。私が用のあるところは。」

 ビルの影に立ち止まったヒューイは、正面の大きなタワーを指差した。第二 層では珍しい、管理の行き届いた黒い生体外壁が鈍い光を放っている。

「ここはD地区の有力者、ガスパーがいらっしゃるタワーですわね。」

 アーミアは正面のタワーを確認しながら応えた。タワーの入り口には警備員 らしい人影が見える。

「さて、どうやって進入しましょうかね。既に命を狙われているところを見ると、 私が行ってもすぐに切り殺されるのがおちでしょうから。」

 ヒューイは肩をすくめた。するとオフィサーがアーミアの方に振り返ると、目で行動を促した。 アーミアは「まったく、人遣いが荒いんですから…。」とでも言いたそうな顔で、ビルに向かって 歩き出した。

「!!何を?」

アーミアを止めようとしたヒューイをオフィサーが押さえる。

「まあまあ、凄腕カウンターハンターの妙技ってヤツを、見せてもらおうじゃないですか。」

 困惑の表情を浮かべるヒューイとは対照的に、オフィサーは穏やかな笑みを 浮かべたまま、アーミアの背中を見送った。

「こんにちは。」

 ビルの前まで歩いていったアーミアは、入り口に並んでいる二人の男に、にっこり微笑むと 軽く手を振った。二人の男は、一瞬アーミアの美貌に見とれたが、すぐ自分の任務を思い出した。

「何のようだ?用が無いならさっさとあっちに行け。」

 男はソードに手をかけた。

「まあ、つれないお返事ですこと…」

 アーミアは微笑んだまま、右手で髪をかきあげた。今まで隠れていた右半分の顔があらわになる。 左同様美しい顔であったが、何かがおかしい。男たちはアーミアの右の目に釘付けとなった。 左の瞳が美しい蒼色にもかかわらず、右の瞳は鈍い銀色に光っていたのだ。

「今から三人、ここを通していただくけれど、よろしいかしら?」

 男たちはほうけたようにアーミアの言葉に頷いた。これがアーミアの特殊能力、催眠である。 この技を応用すれば、相手の心にアーミアに体力を吸い取られるような錯覚を起こさせて精神的に 死に至らしめたり、自己催眠をかけることによって、自分の能力を一時的に伸ばしたりすることができのだ。

「お見事!」

 アーミアのところまで歩いてきたオフィサーが、アーミアに声をかける。

「これは?」

不思議そうに首を傾げるヒューイを促すと、三人は黒色のビルの中に歩を進めた。

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更新日:2003年9月8日
管理人:CHI