「…ここです。私が用のあるところは。」
ビルの影に立ち止まったヒューイは、正面の大きなタワーを指差した。第二 層では珍しい、管理の行き届いた黒い生体外壁が鈍い光を放っている。
「ここはD地区の有力者、ガスパーがいらっしゃるタワーですわね。」
アーミアは正面のタワーを確認しながら応えた。タワーの入り口には警備員 らしい人影が見える。
「さて、どうやって進入しましょうかね。既に命を狙われているところを見ると、 私が行ってもすぐに切り殺されるのがおちでしょうから。」
ヒューイは肩をすくめた。するとオフィサーがアーミアの方に振り返ると、目で行動を促した。 アーミアは「まったく、人遣いが荒いんですから…。」とでも言いたそうな顔で、ビルに向かって 歩き出した。
「!!何を?」
アーミアを止めようとしたヒューイをオフィサーが押さえる。
「まあまあ、凄腕カウンターハンターの妙技ってヤツを、見せてもらおうじゃないですか。」
困惑の表情を浮かべるヒューイとは対照的に、オフィサーは穏やかな笑みを 浮かべたまま、アーミアの背中を見送った。
「こんにちは。」
ビルの前まで歩いていったアーミアは、入り口に並んでいる二人の男に、にっこり微笑むと 軽く手を振った。二人の男は、一瞬アーミアの美貌に見とれたが、すぐ自分の任務を思い出した。
「何のようだ?用が無いならさっさとあっちに行け。」
男はソードに手をかけた。
「まあ、つれないお返事ですこと…」
アーミアは微笑んだまま、右手で髪をかきあげた。今まで隠れていた右半分の顔があらわになる。 左同様美しい顔であったが、何かがおかしい。男たちはアーミアの右の目に釘付けとなった。 左の瞳が美しい蒼色にもかかわらず、右の瞳は鈍い銀色に光っていたのだ。
「今から三人、ここを通していただくけれど、よろしいかしら?」
男たちはほうけたようにアーミアの言葉に頷いた。これがアーミアの特殊能力、催眠である。 この技を応用すれば、相手の心にアーミアに体力を吸い取られるような錯覚を起こさせて精神的に 死に至らしめたり、自己催眠をかけることによって、自分の能力を一時的に伸ばしたりすることができのだ。
「お見事!」
アーミアのところまで歩いてきたオフィサーが、アーミアに声をかける。
「これは?」
不思議そうに首を傾げるヒューイを促すと、三人は黒色のビルの中に歩を進めた。