二重螺旋2

 アーミアは、黙って地面に突き刺さったスライサーを拾い上げると、ヒューイに視線を送った。

「あなた、誰かに狙われるような覚えはありまして?」

 ヒューイは黙ったまま、ミャウとミュウのを抱き上げた。そう、彼が考えていたのもそのことだったの である。恐らく、あの件しかないだろうことは、ヒューイにも分かっていた。だとすれば、第二層に 行かなくてはならない。このまま放っておいては、いつか自分は殺されてしまうだろう。ヒューイが もと来た道を戻ろうとした時、笑いながら立っていた青い髪のオフィサーが一言ヒューイにささやいた。

「D地区のガスパー、擁護していた反マザー勢力を裏切ったらしいですね。」

 ヒューイは鋭い視線を男に投げつけた。

「何を言ってらっしゃるんですか。D地区はマザーを受け入れているではないですか。もともと 反マザー勢力とは敵対してますよ?」

 ヒューイの射抜くような視線を平然と受けとめたまま、オフィサーは微笑んだ。

「その辺は、あなたが一番よくわかっていらっしゃるんじゃないですか?」

 ヒューイはオフィサーの顔をじっと正視した。このお気楽公務員は何を知っているのか…。

「どうでしょうね…あなたの方が分かっていらっしゃるような気がしますが。とりあえず、私、 あなた方に助けを求めた覚えはありませんので、お礼は言わずに失礼しますよ。」

 ヒューイは二人を後に残すと、もと来た道を歩き出した。アーミアは拾い上げたスライサーを 折りたたむと、肩に装着した。何かは分からないが、金が転がり込んできそうな気配に、 アーミアはにっこりと微笑んだ。

「で、なんであなた方は私についてくるのですか?」

 ここは、第二層D地区。ヒューイの生まれ故郷である。どことなく、第一層の外縁部によく似た町並みをしている。D地区は、ガスパーという男が地区を仕切っており、八年ほど前、反マザーの側から一転、第一層の政府と手を組むことを決定し、マザーを受け入れた。そのD地区をヒューイ、アーミア、オフィサーの三人は歩いていた。

「はっきり言ってさしあげますけど、あなた一人で生きて帰れるわけないでしょう?まあ、あなたの 賢い頭なら分かっていらっしゃると思いますけど。」

 アーミアがヒューイに軽口をたたく。

「私は、助けを求めた覚えはありません。」

 憮然とした表情で答えるヒューイにアーミアは微笑んだ。自分で何とかできないからと言って、すぐに他人に泣きついてくる奴等よりもよっぽどましである。有名なカウンターハンターであるアーミアは、「何とかして下さい」と助けを求められることがよくある。そういう奴等は、アーミアが代価を請求すると、「何ももっていない私達から更に奪うというのか!」と言って怒り出すのだ。別にお金が欲しいわけではない。本当に何とかしたいのだったら、自分が何とかしようとしろ、それでも駄目だったら私が助けてやるよ、と言いたいだけなのだ。自分一人で厳しい世界を生きてきたアーミアならではの人生観であった。

「さっきのあなたを狙った男、有名な賞金首でしたのよ。他にも賞金首がいそうですものね。楽しみですわ。」

 アーミアは心底楽しそうに笑った。ヒューイはアーミアの押しつけがましい親切とは違う態度に 少し感謝した。

「確かに、私一人では生きて帰ることはできません。しかし、あなた方も生きて帰ることができないかもしれませんよ?」

と、さらりといってのけるヒューイに、

「大丈夫、生きて帰りますから。」

 笑ったまま黙っていたオフィサーが静かに応えた。

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更新日:2003年9月8日
管理人:CHI