二重螺旋

 その時、店内が除々に明るくなり始めた。店中央にある水槽には電球が仕込んであり、明るくなったり、 暗くなったりするらしい。おそらく空気があるレベルより汚れると電球が付き、明るい間は 緑藻植物が光合成を行って、空気清浄するのであろう。店内が少し明るくなると、各テーブルや カウンターに置かれていた半球状の明かりは消えた。先ほどまではよく分からなかったのだが、 店内はカウンターの向こうに店員が二人、カウンターには客が三人、テーブルにはジェニックと メリッサだけという構成で、客の一人は、ちょうど店員に金を払って店を出ていくところであった。 筋肉質な中年男で、頭は禿げているのか剃っているのか。服装は筋肉を誇示するかのように軽装で、 首には不思議な色に輝く、女性をあしらった美しい首飾りを下げている。彼には似つかわしくない 装飾品であった。カウンターに向かって座っていたメリッサの顔が一瞬こわばったが、ジェニックの 視線に気付くと笑顔に戻った。そして、

「ごめんなさい、ちょっと待ってて下さる?」

と言い残すと、店を出ていってしまった。そのとたん、空気清浄が終わったのか明かりが除々に 落ちてゆき、店内はまた薄暗くなった。そしてテーブルの上の半球に青白い光がともる。一人店に 取り残されたジェニックは、カウンターの客がもう一人、店から出ていくのを背中で感じつつ、 グラスの残りを一気に飲み干した。

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更新日:2003年9月8日
管理人:CHI